本記事の内容を追試される方は自己責任において十分に注意して行ってください。
LUMIX G100Dが発表されました。実質的な変更はUSB端子がUSB-Cに変更されたことぐらいに見えました。最近似たような話をどこかで聞いたような気がします。で、発表資料等々を見ていて気になる一文を見つけました。
仕様上、USB充電とUSB給電に対応しているのですが、モバイルバッテリーからのUSB給電には対応していないそうです。どうやって供給元がACアダプタなのかモバイルバッテリーなのかを見分けているのか謎ですしちょっと気になります。
ただ、今回の本題はG100Dではなく、私が以前からお勧めしているLUMIX DC-G9(G9PRO)についてのUSB給電問題です。
G9PRO USB給電問題とは?
USB充電とUSB給電
先に、混乱しないように前提知識を説明しておきます。
- 電源OFF状態のカメラにUSBケーブルをつなげて、バッテリーの充電が行えるのがUSB充電
- 電源ON状態のカメラにUSBケーブルをつなげて、USBからの電力供給によりカメラを動作させられるのがUSB給電
USB給電に対応しているカメラはUSB充電にも対応していますが、USB給電には非対応でUSB充電のみ対応というカメラもあります。最近のカメラはほぼ両対応ですね。
USB充電は、旅先などでカメラ専用のバッテリー充電器が不要になる機能です。スマートフォンの充電器と共用できますからね。
一方、USB給電の場合は動画やタイムラプスなどでカメラを長時間使用したい場合に便利な機能です。
ダミーバッテリーから電源を供給する類のものは昔からありますが、USB給電の場合にはカメラ内蔵のバッテリーと併用できるので、撮影を一切停止せずに外部バッテリーを入れ替えることが可能である点です。これはカメラを途中で絶対に止めたくないタイムラプスなどでは非常に重宝します。
G9PRO USB給電問題
G9PROはUSB給電に対応しているのですが、モバイルバッテリーやケーブルの組み合わせによってUSB給電ができない場合がある、という問題です。これは有名掲示板や個人ブログサイトなどでも取り上げられています。
どうすればG9PROでUSB給電が使えるのか明確な答えが見つからなかったので、本記事で検証してみたという感じです。
検証
USB給電ができない場合、G9PROに”USBの供給能力不足により…”といった趣旨の表示がされUSBからの充電も給電されない状態となります。
G9PROはいったい何を基準に電源の供給能力を判断しているのでしょうか?検証したモバイルバッテリーには1ポートあたり5V/3AまでOKというものもありましたので、これで不足といわれても納得できません。
使える組み合わせと使えない組み合わせ
とりあえず手持ちのケーブルやモバイルバッテリーでいくつかの組み合わせを試してどのような挙動になるか検証をしました。とりあえず、結果は以下のようになりました。
Anker AstroPro | Anker AstroM3 | Anker PowerCore13000 | RAVPOWER 20000mAh | ALFOX 20000mAh |
|
---|---|---|---|---|---|
G9付属給電用ケーブル(USB2.0) | 〇 | 〇 | × | × | × |
Volutz緑 2.0m | 〇 | 〇 | × | × | × |
Ankerの短いケーブル | 〇 | 〇 | × | × | × |
正体不明白いケーブル | 〇 | 〇 | × | × | × |
正体不明黒いケーブル | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
検証にあたり、以下の点を考慮しています。
- 電源供給側の端子はUSBのA端子のみ(USB-Cが絡むと話が複雑になるため)
- ACアダプタでも検証を行いましたが、ほぼ全ての組み合わせで給電動作に問題がなかったので結果からは外しています。
- 極まれに上記表でNGとなっている組み合わせでもUSB給電OKとなる場合もある。(条件不明)
結果について
結果を見て感じるのは以下の3点です。
- 古いモバイルバッテリーではUSB給電ができますが、比較的新しいモバイルバッテリーは大方NG
- ケーブルによってOK/NGが決まっているというよりは、モバイルバッテリーによってOK/NGが決まっている印象。ただ、必ずしもそうではない。
- 1本だけ、どのモバイルバッテリーでもUSB給電OKになっているケーブルがある。
謎のUSBケーブル(黒)
どのモバイルバッテリーと組み合わせてもUSB給電OKになったこの謎のUSBケーブルは、充電専用のUSBケーブルです。バッテリーとの組み合わせでOK/NGが分かれた他のUSBケーブルは全て通信まで可能な通常のUSBケーブルです。
なぜこのUSBケーブルだとすべてOKになるのか、USBの仕様を知らないとわからない部分があります。次の検証の前にその部分を簡単に説明します。(面倒な人は読み飛ばしてください)
USBの電源利用について
USBはUniversal Serial Busの略で、知らない人はいない端子(通信規格)です。
USB登場前はキーボードやマウス、プリンターなどそれぞれ全て異なるインターフェースでつながっていましたが、それはメンドクサイということで登場したのがUSBです。1つの端子をハブで分岐させてなんでもつなげられるよ~というのが売りでした。
最初はマウスやキーボード、プリンターに加えてUSBメモリなどに使用されていました。しかし、いつの間にかこれが単に電源を取るための端子として使われるようにもなりました。USBの規格を策定した際にはおそらくここまで電源端子として普及するとは誰も考えてはいなかったのではないでしょうか。
ものすごくざっくりいうと、最初のUSBの電源の規格は5Vで500mA MAXでした。ここで注意していただきたいのは
- USBが供給する電源電圧は5V
- デバイス側は500mA以上の電流を要求してはいけない
ということです。USBの供給元が決められるのは電圧だけであって電流までは決められません。デバイス側の抵抗値が10Ωであれば500mAですが、1Ωの場合だと5Aも流れることになります。単純なオームの法則です。
供給側で過電流をシャットダウンすることは可能ですが、デバイスの抵抗値を変更することはできないのです。当たり前ですがこれは重要なポイントです。定電圧電源の場合、電流値を決めるのは負荷側であって、電源側ではありません。
もっと電流を
USBが電源として使われるようになると、もっと電流を取り出したいという要望が出てきます。特に圧力が強かったのが携帯電話の急速充電などです。
しかし、すでに500mAまでの電力供給しか対応していない機器が出回っている以上、はい今日から1AまでOKでーす、というわけにはいきません。500mAまでしか対応していない供給源に1Aを要求する機器をつなぐと最悪壊れます。逆なら問題ないのですが、同じ形のコネクタだったら絶対みんな気にせず差しますよね。
そこで考え出された仕組みが、USBの通信ラインを使って供給側がどのぐらいの電流まで流せるかをデバイス側が確認した後で、その枠内で必要な電流を要求する(=デバイス内の抵抗値を変える)というものです。
その技術的方法については各社が色々な事を考えついてしまったので方式が乱立してしまいました。
電源供給専用USB
少し話が前後しますが、電源としてUSBが使われるようになるとこれに合わせた規格をつくろうということになりました。これがUSB-BC(Battery Charge)です。USB-BCにもバージョンがあって複雑なのですが、最初のバージョンは簡単です。
USBは次の4つの電線で構成されています。
- VBUS(電源)
- GND
- D+
- D-
USBの世代が進むともっと電線が増えてカオスになるのですが、USBとして最低限必要なのはこの4本です。D+とD-が差動のデータラインですね。キーボードでどの文字を打ったとかマウスをどう動かしたとかのデータはこのD+とD-の電線でやり取りされます。
そして、電源供給専用ならこれ(データ線)は使わないよね、ということでUSB-BCの最初のバージョンではD+とD-をショート(短絡)させることにしました。
電源の供給しかしないUSBアダプターはD+とD-をショートさせておけば、つながれたデバイスが
”こいつは電源とりだすだけの端子だな”
ということが判断できるワケです。ここで重要なのは電源供給元が自分がどのような機器であるかを主張するための方法であるという点です。
電源供給専用USBケーブル
充電専用と銘打ったUSBケーブルを100均でよく見かけます。これは、先に挙げたUSBに必要な4本の電線のうち、VBUSとGNDだけにしてしまったものです。電線が少なくなりますからその分ケーブルを細くできますし、製品コストも削減できます。さらに、USB-BCの規格に則り、コネクタ内でD+とD-を短絡しておきます。こうすると、デバイスから見たときに、ホスト側がパソコンだろうがただの充電器だろうが電力供給のみを行うモノにしか見えなくなる、という寸法です。
ケーブルのコネクタ内でD+とD-を短絡させてしまうのがUSB-BCの規格として許されているのかはわかりません。ただ、授業で代返しているようなものなので、素行が良いとは言えないですよね。
また、D+とD-の短絡もせずにVBUSとGNDだけにしてしまったような製品が存在するのかはわかりません。この場合、デバイス側は存在しないホストを探し続けることになるのでしょうか。
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どのケーブルでも使えるモバイルバッテリー
古い製品ですが、AnkerのAstroM3はAndroid用のUSBポートと、Apple用のUSBポートがそれぞれ1つづつ用意されています。そして、Android用のUSBポートの結線の状態を確認したところ、USB-BCの規格に準拠するようにD+とD-が短絡されていました。
つまり
D+とD-が短絡されていればG9PROはUSB給電を許してくれる
という仮説が成り立ちます。
通信可能ケーブルではUSB給電NGなモバイルバッテリー
仮説を検証して確認
D+とD-が短絡されていればG9PROはUSB給電を許してくれる
という仮説を検証するために次のようなバラックを組みました。使用した2本のUSBケーブルは正しく通信ラインが生きているものです。
モバイルバッテリーはRAVPOWERの20000mAhのモバイルバッテリーを使用しました。まともなUSBケーブルとの組み合わせではUSB給電NGとなるものです。
そして、カメラ側から繋がっているD+とD-のラインを短絡させます。バッテリー側のD+とD-はどこにもつながっていません。(あえて言えば、バッテリー内でVBUSにプルアップされている状態のはずです)
結果は見事ビンゴ、USB給電がOKとなりました。これで仮説が正しいことが証明されました。
結論
D+とD-が短絡されていればG9PROはUSB給電を許してくれる
ということが確認できました。USBで通信できるものはPCの可能性があるからUSB給電には使わない、という判断なのでしょうか。
理由はともかく、USB給電時には400~500mA程度の結構大きめな電流が流れますので、今回検証で使ったようなバラック状態で運用するのは絶対にお勧めできませんが、経路の途中でカメラ側のD+とD-を短絡させるだけですのでUSB給電用の変換アダプタ的なものを作るのは難しくないと思います。
もしくは、”充電専用USBケーブル”を適当に漁ってみるのも手かもしれません。無改造でそのまま使用できる可能性が高いです。
繰り返しになりますが本記事の内容について筆者は一切の責任を負いませんし、当然ながらPanasonicも責任は取ってくれません。すべて自己責任である点、ご留意ください。
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