LFPバッテリーの簡単で安全な充電方法を考える(1)

XZNYのLFPバッテリー マイコン/Arduino

LFPバッテリーとは、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの略で名前の通りリチウムイオン電池の一種です。

このLFPバッテリーを簡単かつ安全に充電する方法や充電特性について調査・検討を行いました。

専用品を買って済ませるのではなく、自分で充電器を作るにはどうしたらよいか?という観点のお話です。
専用品を使うにしても、それらをブラックボックスにせず挙動を理解しておくことが重要だと考えています。特に、Amazonで手に入るような格安LFPバッテリーは自己責任での利用が前提ですから、原理や挙動をわからずに使うのは危険です。

LFPバッテリーについて

LFPバッテリーの特長

LFPバッテリー(以下LFP)は他のリチウムイオン電池に比べて以下のような特徴があります。

  • コバルト、ニッケルなどの希少金属を使わないため安価
  • 原理的に安定で燃えにくい/爆発しない(しにくい)
  • 寿命、充放電サイクル寿命が長い
  • 重量当たりのエネルギーは少なめ

特に安価で安全という特徴から、ここ数年でDIY界隈では主流になりつつあります。特に太陽光パネルと組み合わせたオフグリッドの自作やアウトドアで使用する電源としてもてはやされています。以前は自動車などで使われる鉛バッテリーが主流でした。

私も、天体望遠鏡などを動かす電源として鉛バッテリー(シールドタイプ)を使用してきましたが、2022年の秋ごろからこれらのバッテリーをLFPに置き換えて使用しています。

従来の鉛バッテリーと比べて軽く、容量も大きいですから充電方法さえどうにかなればLFPバッテリーの方が良いわけです。価格についても、2024年3月時点では容量に対する価格で考えるとほぼ同等です。

リチウムイオン電池の一般的な充電方法

今回の記事を書くにあたり、書籍やWEBで調査を行いました。それらの中で一様に語られている、リチウムイオン電池の鉄板の充電方法はCC-CV方式というものです。CCは定電流、CVは定電圧という意味で、充電初期は一定電流で充電し、充電終盤には定電圧で充電を行うというものです。

これは充電速度と電池の劣化そして安全性を考慮した理にかなった方法です。

しかし、定電流というのがくせ者で、そこらのモジュールを買ってくれば済む定電圧方式とは違い、面倒な回路を組む必要があります(しかも途中で定電圧方式に移行する必要がある)。

安定化電源を持っている方であれば、電圧と制限電流を設定すれば上記制御は簡単に可能です。

”遅くても良いからとりあえず簡単に充電できれば良い”と考えたとき、定電圧方式のみを使って充電することを考えたくなるのが人情なのですが、この点について論じられている資料がなぜか見つかりませんでした。

バッテリー充電の基本と注意

バッテリーの充放電を考える時、電流や電圧を知っていなければならないのは当然ですが、聞きなれない言葉にCレートと呼ばれる単位(C)があります。1C充電だとか0.3C放電だとかそういう風に使います。

これはバッテリーの定格電流量(Ah)を1として、充放電時の電流値をその相対値としてあらわすものです。1C充電といえば1時間でそのバッテリーを完全充電できる電流値で充電することを指します。0.5C充電なら満充電まで2時間というわけですね。ですから、同じ1Cといってもそれぞれのバッテリーによってそれを指す電流値は異なります。

本記事で扱うバッテリーは定格12.8V、12AhのLFPバッテリーですので1C充電といったときの電流値は12Aです。今回使用したバッテリーには連続充電電流は10Aとなっていますので、約0.8Cまでの充電に対応しているということになります。

高いCレートであれば充電は早く完了しますが、バッテリーの劣化は早くなります。この辺りはそれぞれの必要とする条件によって適当なCレート(電流値)を選ぶ必要があるということですね。

物理学で登場するクーロン(C)とは違うので混同しないように。

電流についての考え方

充放電においてどのような電流値を選ぶかについては相対的な基準と絶対的な基準の2つの軸で考える必要があります。

相対的な基準というのは、先に述べたようなCレートに基づいてそのバッテリーに対して適切な電流値を選ばなければならないということです。数Ahの小さなものから数十~数百Ahなどといった巨大なものまで簡単に入手出来てしまいますが、同じ充電電流で考えてはいけないということですね。

絶対的な基準というのは、そのアンペア数の電流を取り扱うのに適切な電線径を選んでいるかどうかなど、その電流の大きさが自分の取り扱える範囲であるかどうかについて考慮が必要ということです。

上記2点、よく注意して取り扱ってください。(自戒も込めて)

定電圧源による充電実験

先にも述べましたが、本記事で取り扱っているバッテリーは定格12.8V/12Ahの比較的小型のバッテリーです。以下、充電電流等について取り扱いますが、バッテリーの定格容量が違えば同じ電圧で充電したとしても電流値は異なる点に注意してください。12Ahのバッテリーではこうなった、というだけの話です。数十~数百Ahの定格容量をもったバッテリーではそれに応じた電流が流れます。ご注意ください。

実験条件

本記事で検証した充電特性の検証については以下の共通条件としています。

  • 約1Aで出力してBMSによって出力がカット(10V)されるまで放電させた状態から充電を開始
  • 19V出力のACアダプタを使い、降圧型DCDCコンバーターで各実験条件に合わせた電圧を生成
  • 電流測定のための10mΩのシャント抵抗を使用。また機器の都合上接続ポイントが多く経路上の抵抗が多めである点は注意

使用したDCDCコンバーター


バッテリー本体の記載事項

LFPバッテリーの定格

とりあえずやってみる

バッテリー本体には充電電圧は14.6Vと記載されており、添付の説明書には14.4±0.2Vと記載されています。一般的にLFPバッテリーの充電電圧も14.2~14.6Vとされていますので、まず14.4Vで充電を行ってみました。

その結果がこちらです。

LFPバッテリーの充電ログ

14.4V充電

充電開始直後には6Aを超える大きな電流が流れた後、急速に電流が減少し30分程度で4A程度まで低下しました。その後電流の変化は緩やかに減少しながら3~4A程度流れ続け、充電完了直前で一気に電流が低下しました。満充電にかかった時間は約4時間でした。

バッテリー本体に記載されている最大充電電流は10Aですので定格内だからOKといえばOKです。ただ、個人的な感覚から言えばこれはちょっと危険な領域です。

6Aを超える電流値もそうですが、このときの電力は90Wにも達しており、用意していたACアダプターの定格一杯の値です。DC-DCコンバーターも定格ギリギリでした。

もちろん、これ以上大きなACアダプターもDCDCコンバーターも用意することは可能ですが、これらより大きい容量のモノはお手軽ではなくなってしまいます。どこまでなら許容できるかは人によって判断が異なるところですが、少なくとも充電初期段階のピークは押さえておきたいところです。

情報を探してもCC-CV充電の話しか出てこないのは、充電最初期の大電流を想定内に抑えるという意味もあるのではないかという気がします。

ACアダプタやDCDCコンバーターの定格によって今回の結果が制限されている可能性もあります。例えば200WのACアダプタとDCDCコンバーターを用意すればその分だけ電流を吸い込んだかもしれません。どちらにせよ、充電電圧が14.4Vと書いてあるからと言って14.4Vの定電圧源を直結するような充電方法はあまりお勧めできません。
12Ahの小型バッテリーでコレですから、数十Ahのバッテリーはどれだけ電流を吸い込むのか考えるのが怖くなりますね。同時にCC-CV充電が理にかなっているというのも実感しました。電流を制限できればどんなに大きなバッテリーを充電するときも安心です。(時間はかかるけど)

電流制限抵抗を追加

ベタなやり方ですが電流制限のために0.5Ωの抵抗を直列に接続しました。電流が流れれば流れるほど抵抗部分で勝手に電圧がドロップしてくれる仕組みです。簡単で安いですし抵抗の定格と発熱さえ気を付けておけば壊れることもまずありません。


電流制限抵抗には大きな負荷がかかるため、写真のようなセメント抵抗かメタルクラッド抵抗が最適です。

電流制限抵抗として用いたセメント抵抗とメタルクラッド抵抗

 


充電電圧は同じく14.4Vです。その結果はこちらです。

LFPバッテリーの充電ログ

14.4V充電、0.5Ωの電流制限抵抗

ピーク電流は3A、電力は30W程度に抑えられています。充電時間はおよそ12時間でした。電流制限抵抗なしの場合と比べて4倍ほど時間がかかっていますが、充電時間の大半を占める部分は1A/15W前後でリーズナブルなところです。充電時間はかかりますが、このぐらいであれば各種アダプタ・モジュールも安いもので対応できます。

この実験後、バッテリー容量を測定(約1A放電)したところ12.3Ahでしたので、定格通りの性能が出ていることも確認できました。

安全のためにも、定電圧で充電するなら電流制限抵抗は必須と思ってよいです。充電速度は二の次です。

充電電圧を下げて充電

上記実験と同じように、0.5Ωの電流制限抵抗を加えた上でさらに低い電圧での充電を行ってみました。設定した電圧は13.8Vです。

LFPバッテリーの場合14.4Vで充電した場合、充電直後は14.4Vですが、しばらく時間がたつと概ねこのぐらいの電圧に落ち着いてくるんですよね(*)。じゃあ13.8Vで充電しても時間さえかければ満充電にできるんじゃね?という発想です。

(*)LFPバッテリーに限らず、大方のバッテリーは充電後時間が経過すると電圧が低下します。これは自己放電とは別の話です。電力が失われているわけではなく、バッテリー内部の化学的な特性によるようです。

結果はこちらです。

LFPバッテリーの充電ログ

13.8V充電、0.5Ω電流制限抵抗

満充電に24時間かかりましたが、電池容量は14.4Vでの充電時と全く同じ12.3Ahあることが確認できました。

充電電圧が14.2~14.6Vと指定されているのは充電速度とのバランスを考えたときに一番良い電圧であるということではないでしょうか?それ以下の電圧で充電しても時間がかかるだけであって、バッテリーに対して悪い影響があるとは思えません。この点についても資料を探したのですが見つけられませんでした。この辺りの話をご存じの方がおられましたらコメント欄へ是非。

13.8V以下での充電については検証していませんのでどうなるかわかりません。LFPバッテリーは放電特性がフラット(バッテリー残量に対して電圧がほとんど変化しない)ですから、充電電圧を下げていくと容量が大きく変化する充電電圧の閾値がどこかにあるはずです。ただ、面倒なのでこの点についてはあまり突き詰めたくないです。

まとめ

今回の実験で分かったことは以下の通りです。

  • 定電圧源で充電するなら安全のために電流制限抵抗は入れよう。
  • 数十Ahクラスの大きなバッテリーを使いたいなら鉄板のCC-CV制御を使った方が良い。
  • LFPバッテリーは13.8Vぐらいでも満充電にできる。

何かの参考になれば幸いです。
なお、タイトルに(1)と入れましたが(2)があるかはわかりません。個人的には充電電流のカーブが歪なのが気になってます。

参考文献

  • トランジスタ技術SPECIAL No.135 蓄電池の充電&電源技術
  • トランジスタ技術 2022/03 リチウムイオン電池新常識&回路選
  • トランジスタ技術2022/02~07 リチウムイオン電池直列/並列の回路技術
Liイオン/鉛/NiMH蓄電池の充電&電源技術(TRSP No.135) (トランジスタ技術SPECIAL)

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トランジスタ技術SPECIAL編集部
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