先日”PCBGOGOというプリント基板作成サービスを1年間使ってみた感想”という記事を投稿しました。この1年間で10種類ほどの基板を作製しましたが、その中には電子回路基板ではないものもありました。
今回はプリント基板作製サービスの少し変わった使い方を紹介します。
作ったもの
早速ですが作ったものを見てもらいましょう。こちらです。
はい。意味不明ですね。
でもわかる人にはわかるかもしれません。これはニコンZマウント用のリアフィルターホルダーです。
リアフィルターというのは、カメラレンズと撮像センサーの間に挿入するフィルターのことです。カメラフィルターと言えばレンズ先端に付けるタイプが最も一般的ですが、超広角レンズ/魚眼レンズなどレンズ前側にフィルターが取り付けられないものもあります。このようなレンズでフィルターを使いたいときにはレンズの後ろにフィルターを装着します。
作製した部品は、任意のフィルターを取り付け、この部品ごとレンズマウントの中にはめ込むことでレンズの後ろ側(リア)にフィルターを設置するための部品なのです。
超広角レンズ/魚眼レンズの中にはあらかじめレンズの後ろ側にリアフィルターを取り付けるためのホルダーが備えられているものがありますが、このようなホルダーがないレンズも多いです。この場合にはフィルターをレンズ後部に両面テープなどで接着する必要があります。
リアフィルターは何に使うのか
リアフィルターの使用目的は天体写真でソフトフィルターを使うことにあります。天体写真でリアフィルターを使うと、明るい星はより明るく(大きく)、暗い星はより暗くする効果を得ることができます。
もちろんバチバチの点像でシャープに写したい場合もあるわけですが、明るい星を強調する(≒星座を強調する)という表現手法の一つですね。
▲超広角レンズの前側にソフトフィルターを置くと、星の像が放射方向に延びてしまう
マウント内に装着するメリット
先に述べたように、装着したいだけであればレンズの後ろに両面テープなどで張り付けてしまうのが一番簡単なのですが、実は天体撮影で使えるリアフィルターが結構な貴重品です。
以前はLeeのソフトフィルターが定番だったのですが2022年頃に生産終了してしまい、リアフィルター難民が発生、オークションサイトなどで高値で取引されるといった事態に陥っていました。
ミラーレス化でレンズ前玉を小さくしつつ画質向上を図れるようになったので、超広角レンズでも前側フィルターを使用できるものも以前より増えているのですが、超広角レンズの前側にソフトフィルターを取り付けると星の像が伸びてしまうという問題が発生します。
ということで、依然として星屋さんたちの間ではリアソフトフィルターが重宝されているわけですが、2024年に入ってからKenkoからリアプロソフトンなるリア用のソフトフィルターが販売されました。
こういったものを販売していただけるのは大変ありがたいのですが、フィルターサイズが小さい上に効果のことなる3種類のフィルターを抱き合わせ販売で1万2千円前後というなかなかにイイ感じの売り方をしてくれているわけです。(Leeのソフトフィルターもそこまで安価だったわけではありませんが…)
ということで、お金さえ出せば手に入る状態ながら貴重品であるということは変わらず、レンズごとに切り出して使うのもなかなか大変…という状況なわけです。
リアソフトフィルターについて
説明が前後するのですが知らない方のために説明しますと、リアに装着するフィルターは非常に薄いプラスティック製のフィルム状のフィルターです。材質はTACなどの光学フィルムで厚みは100~300μmぐらいです。厚いと光学性能に影響が出てしまうのでなるべく薄くしたいんですね。
要するにOHPシート(死語)みたいなもんなので、両面テープではったりはがしたりしていたらあっという間にダメになってしまいそうですよね。
そういったことからもレンズに両面テープで張り付ける荒療治は避けたいわけです。
ということで
マウント内部に装着できるようにしてしまえば、どのレンズでも使えるしフィルターも痛めにくいワケです。
実際に有名どころでは、よしみカメラさんがSTC製のマウント内部に装着できるタイプのフィルター枠を販売されています。しかしこれもかなり高価で、フィルターごとに欲しいとか複数台で使いたいとかいう場合にはなかなかしんどいことになります。
前置きが長くなりましたが、要するにマウント内部に仕込むリアフィルター枠を自作したというお話です。
PCB作製サービスで自作する
マウント内部に仕込むので薄く作らなければなりませんし、マウント内部への固定は摩擦と突っ張りで固定することになるのでそれなりの強度が必要です。考えられるのはアルミを削るかプラ板を削るかですが、複雑な形状になるので手作業ではなかなか厳しいです。
また、どちらにせよワンオフで作ったらとんでもない金額になるのは目に見えています。ということで目を付けたのがPCB作製サービスです。
先日も紹介した通り、厚み1.6mmのガラスエポキシ基板であれば非常に安価に作ることができます。クーポン等を利用すれば送料を入れても10枚で1000円以下、1枚当たり100円以下です。
ガラスエポキシはかなり固いので強度は申し分ありませんし、製造工程の中に外形切り出しのためにフライス加工が入っていますので、(2次元に限れば)形状の自由度も高いです。
設計
マウントの内部形状や寸法を測定し、はまりそうな形に仕上げました。出来上がったものがこちらです。
回路図はこちらです。ふざけているわけではありません。
PCBの設計図です。穴の配置以外はEdge.Cutsレイヤーのみで描写しています。
ちなみに、これを”両面基板”で入稿したらPCBGOGOの担当者から”片面基板でいいよね”という確認が来ました。(両面とも黒になるなら何でもいいよ、という返事をしました。)
そして出来上がったものが最初に紹介したものです。
追加加工
出来上がったものにちょっと加工が必要です。
Zマウント内部の断面は次のような感じになっています。上側(ペンタ部側)は取付面に対して垂直になっているので問題ないのですが、下側(三脚穴側)は段があって斜めになっているために突っ張ることができません。
段の上側をフィルターホルダー取付面にするとレンズと干渉します。
そこで、薄いプラバンを切り出してフィルターホルダーに張り付け、ここで突っ張ることにします。
上側(ペンタ側)部分の曲線にはDAISOで販売されている滑り止めを塗って摩擦が効くようにします。
これでカメラをさかさまにしてもフィルターホルダーは落ちなくなります。フィルターホルダーは摩擦と突っ張りで押し込んで固定しているだけです。
まとめ
ということで1個100円でZマウント用のリアフィルターホルダーが作製できました。
PCB作製サービスでは
- 2次元なら多少複雑な形状でもOK
- 材質は固くて薄い
- ワンオフなのに安い(1000円~)
といったメリットがありますので、そのほかの小物作製にも利用できると思います。
今回のようなモノは100%完全自己責任ですのでお勧めはしませんが、真似されたい方は是非どうぞ。もっと良い形状や抑え方のアイデアがあればコメントを頂けると嬉しいです。
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