高速メカシャッターの測定器DIY

PENTAX KM メカシャッター速度・幕速測定 カメラ/天文

前回の記事では、フォトトランジスタを用いてフィルムカメラの低速側のメカシャッター速度を測定する方法を紹介しました。

しかしながら上記方法では、ストロボ同調速度より高速なシャッタースピードの測定には適しません。
フォーカルプレーンシャッターの場合、高速シャッターはスリット露光となりますがフォトダイオードで理想的な1点を検出することは難しい(実質不可能)だからです。

大抵の場合、上記方法ではシャッタースピードは実際の速度よりも遅く計測されます。

シャッタースピードを計測するアプリやフォトダイオードを使った簡易治具を盲目的に使用して結論を得ている方をよく見かけますので、これらの問題を解決する手法を提案します。

基本原理&元のアイデア

今回提案する測定方法の基本原理は

等間隔で発光する光源を用意し、走行中のシャッター幕のスリット間隔を撮影することで露光時間やシャッター幕速を得る

というものです。元となっているアイデアはたかTubeさんが紹介している、ローリングシャッターの読み出し速度を測定する方法です。詳細は動画が非常にわかりやすいので是非ご覧ください。(末尾にリンクを張っておきます。)

具体的な方法

今回紹介する方法は光源を一定間隔で発光させながら、被検カメラのシャッターを動作させ、それを被検カメラのシャッター幕にピントを合わせた別のデジタルカメラで(バルブ)撮影することでその瞬間のスリットを捉えます。

以下は装置全体像です。

メカシャッター速度測定

前(右)から順番に光源、被検カメラ、測定用デジタルカメラで構成しています。

測定用デジタルカメラは被検カメラのシャッターにピントを合わせておきます。この状態でバルブもしくは数秒露出で撮影を開始します。そして測定用デジタルカメラの露光中に被検カメラのシャッターを切ります。

これで被検カメラののメカシャッターのスリットが撮影できます。この方法で得られた画像を読み取って各数値を計算します。

補足:光源

光源は車用のルームランプを使用しました。以下製品は24個のSMDタイプのLEDが長方形の基板に敷き詰められています。サイズは1つ40mm×30mmでしたので余裕を見てこれを2つ並べて使用しました。商品としては1セットにランプが6つ同梱されていましたので1セットで十分です。

当初は砲弾型LEDを並べて作っていたのですが、LED間隔をあまり狭くできないこと、光量が足りなかったことなどからこれを使用しました。車用の製品は数のパワーで安いので1から作るよりもおススメです。

ただし、これだけでは発光面に斑ができてしまいますので適当な拡散シートとコピー用紙で均一な光源にしています。

メカシャッター測定用光源

なお、LEDは周期1~2msec、duty比1/10の矩形波で発光させました。

光源の発光時間は、シャッター幕の走行速度と比較して十分に短ければ最終的な測定精度に大きな影響は出ません。ただし、発光時間が長すぎる場合にはその時間内にスリットが移動して実際よりも大きめに写ってしまいます。
逆に発光時間が短すぎても測定精度には影響しませんが、暗くなりスリットが写りにくくなってしまいます。また、μ秒オーダーになるとスイッチング用のトランジスタやLED(とその蛍光体)の応答速度や、確認のためのフォトトランジスタの応答速度が問題になってきます。

制御はATTINY202を使い、delayMicrosecond()関数で回しています。

#define LED 4

void setup() {
 pinMode(LED, OUTPUT);
}

void loop() {
 digitalWrite(LED, HIGH);
 delayMicroseconds(100);
 digitalWrite(LED, LOW);
 delayMicroseconds(900);
}

プログラム上は単にLEDをON/OFFしているだけに見えますが、マイコンでは直接駆動できない電力なので、回路上はMOSFETを介しています。

測定してみた

PENTAX KM

PENTAX KMは横走りフォーカルプレーンシャッター搭載、最高シャッター速度1/1000秒、ストロボ同調速度は1/60秒です。

シャッター速度1/1000秒で測定した結果を見てみましょう。
光源の設定は周期2msec、duty1/10です。

PENTAX KM メカシャッター速度・幕速測定

まずは幕速の計算です。15本スリットが写っていますがケラレ等があるかもしれないので、両端は切り捨てて13本(13周期)分の平均幕速を計算してみます。

このカメラの場合、右から左に向かってシャッター幕が走行します。つまり、スリットの左端から左端までの距離を測れば先幕の速度、右端から右端までを測れば後幕の速度が計算できます。今回はとりあえず先幕の速度だけ計算してみます。
まず、画面横サイズ36mmに対して、画像上では3673pxありましたので、1mmあたり102.03pxです。
次に13周期分の長さを計測すると2077pxで1周期平均は159.769pxとなり、これは1.5659mmに相当します。1周期2msecとしていますので、先幕の平均走行速度は約0.785mm/msecということがわかります。
次に、スリット幅から露光時間を計算します。簡単のため、ここでは画面中央付近のスリット幅を計測すると、69pxであることがわかりました。これは0.6763mmに相当します。
0.6763mmのスリットが0.785mm/msecで通過するわけですからシャッター速度(露光時間)は
0.6763(mm)/0.785(mm/msec)=0.8615msec=1/1161秒
となります。概ね近い値になっているといったところでしょうか。

▲画像データの読み取りにはimageJというソフトが便利です。


PENTAX MZ-3

同様の方法でPENTAX MZ-3も計算してみました。MZ-3は縦走りシャッターで最高シャッター速度は1/4000でストロボ同調速度は1/125です。

光源の設定は周期1msec、duty1/10です。

まずは1/4000秒設定の結果です。

PENTAX MZ-3メカシャッター速度・幕速測定

詳細はPENTAX KMの場合と同じなので手順は割愛しますが、平均幕速は約4mm/msec、1/4000秒設定時の実測定値は1/4134秒でした。これはよく一致していますね。


1/2000秒設定時の測定値は1/1804秒でした。こちらもまあまあ一致していると思います。

PENTAX MZ-3メカシャッター速度・幕速測定


ちなみに、計算していませんが1/1000秒の設定時は次のような画像が得られました。スリット幅が広くなって部分的に重なってしまっていますね。このような場合は光源の発光間隔を広げないと読み取りが難しいです。ただし、発光間隔を広げすぎるとスリットが2本以上写らなくなって測定できなくなります。この場合は先に紹介したフォトダイオードによる測定の出番です。

PENTAX MZ-3メカシャッター速度・幕速測定

CANON AE-1 PROGRAM

こちらも結果を見てみましょう。AE-1PROGRAMは横走りシャッターで最高速度は1/1000、ストロボ同調速度は1/60です。光源の設定は周期1msec、duty1/10です。

下は1/1000秒設定の時の結果です。

CANON AE-1 PROGRAM メカシャッター速度・幕速測定

この個体は幕速にかなり斑がありそうですね。もともとこんなものだったのか経年劣化でこうなってしまったのかはわかりません。(なお、ハードオフにて300円で拾ってきた個体)

計算してみると、平均幕速は2.75mm/msecですが、シャッターの走り始めは2.68mm/msec、走り終わりは3.44mm/msecと結構な開きがありました。1/1000秒設定時の露光時間を計算してみると、走り始め(画面右側)は約1/1802秒、画面左側で約1/1195秒でした。

スリット幅だけ見ると画面右と左とで3倍ぐらい違うように見えますが、光量としては2/3EVぐらいの違いです。これはシャッターの走り始めと走り終わりとでシャッターの幕速自体が大きく変化しているためですね。

画面の右と左で1EV近い差がでるのは小さくない気がしますがどうでしょうか。この個体ではまだ実撮影をしていないので影響があるのかないのかはよくわかりません。
個人的にはネガなら問題ないけどポジだと怖いかも…という感覚です。

まとめ

今回紹介した方法も詳細を詰めていくと誤差や問題点が結構積みあがってくるので、ご興味のある方は各自考えてみてください。(間違い等あればコメント欄へ是非)

シャッター速度を測るアプリなどが出回っていますが、原理を理解せずに使ってシャッター速度がずれてるだのなんだのというのは感心しません。

せっかくカメラという精密機械をいじっているのですからもっといろいろ考えて楽しみましょう。

参考

面白い測定をされているたかTubeさんに感謝です。いつも参考にさせていただいています。

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